まずは「区分マンション投資」がどのような投資手法なのか、基本的な仕組みと特徴を解説します。特に、比較対象となりやすい「一棟マンション(アパート)投資」との違いを明確にし、初心者が区分マンション投資を選ぶ理由を整理します。
区分マンション投資の基本的な仕組み
区分マンション投資とは、文字通り、マンション一棟丸ごとではなく、その中の一室(区分所有権)を購入し、第三者に賃貸することで家賃収入を得る不動産投資の手法です。
収益の仕組みは、主に2つあります。
- インカムゲイン(家賃収入)
入居者から毎月支払われる家賃収入が主な収益源です。ここからローン返済や管理費、修繕積立金などの諸経費を差し引いた金額が、オーナーの手残り(キャッシュフロー)となります。長期的に安定した収入を得ることを目的とします。 - キャピタルゲイン(売却益)
購入した価格よりも高い価格で物件を売却することで得られる利益です。ただし、不動産市況や物件の状況に左右されるため、購入時から確実に狙えるものではありません。
この区分マンション投資が、特にサラリーマンや不動産投資の初心者に選ばれるのには理由があります。それは、後述する一棟投資に比べて一棟投資と比べて初期投資を抑えやすいという特徴があるため、本業と両立しながら資産形成を目指しやすいからです。
一棟投資との徹底比較
不動産投資には、区分マンション投資のほかに、アパートやマンションを一棟丸ごと所有する「一棟投資」があります。両者の違いを5つの観点から比較してみましょう。
| 比較項目 | 区分マンション投資 | 一棟投資(アパート・マンション) |
| 投資金額 | 比較的少額 (エリアや条件によって数百万円台から) | 高額 (エリアや条件によって数千万円〜数億円) |
| 管理の手間 | 少ない(管理組合・管理会社) | 多い(建物全体の管理・運営) |
| リスク分散 | しやすい(複数の物件に分散可) | しにくい(一箇所に集中) |
| 流動性(売却) | 高い(一室単位で売りやすい) | 低い(高額で買い手が限定的) |
| 自由度 | 低い(共用部は変更不可) | 高い(リフォーム等を自由に決定可) |
※数百万円台からの物件は、築年数や地方都市の物件など、条件が限定的であることに留意が必要です。
投資金額(初期費用)
一棟投資は土地と建物すべてを取得するため、数千万から億単位の資金が必要です。一方、区分マンション投資は一室単位なので、エリアや築年数によっては数百万円からでも購入可能であり、投資のハードルが低いと言えます。
管理の手間
区分マンションでは、エントランスや廊下といった共用部の清掃や管理、建物全体の大規模修繕は「管理組合」が主体となって行います。オーナーは賃貸する室内(専有部)の管理に集中できます。一棟投資の場合は、これらすべてをオーナー自身(または委託した管理会社)が計画・実行する必要があり、手間と責任が大きくなります。
リスク分散
例えば5,000万円の資金がある場合、一棟投資では1つの物件に資金が集中します。もしそのエリアの賃貸需要がなくなったり、災害に見舞われたりすると、大きな損害を被ります。区分マンション投資なら、2,500万円の物件を東京と大阪に1戸ずつ、というようにエリアを分散してリスクを軽減できます。
流動性(売却のしやすさ)
区分マンションは価格帯が低いため、投資家だけでなく「実際に住みたい」という実需層も購入のターゲットとなります。市場が大きく、比較的売却しやすいのが特徴です。一棟投資は高額なため、買い手は投資家や法人に限られ、売却(出口戦略)に時間がかかる傾向があります。
自由度
一棟投資はすべてが自分の所有物であるため、外壁塗装の色を変えたり、共用部に新しい設備を導入したりと、オーナーの裁量で自由に経営判断ができます。区分マンション投資の場合、共用部に関する意思決定は管理組合の総会で決まるため、自分一人の意向で変更することはできません。
区分マンション投資の5つのメリット
区分マンション投資が選ばれる理由となる、具体的なメリットを5つの側面に分けて詳しく解説します。他の投資にはない魅力や、特にサラリーマンにとって有利な点を強調します。
1. 比較的少額の資金から始められる
大きなメリットは、投資の「始めやすさ」です。一棟投資が数千万円以上必要なのに比べ、区分マンション投資は物件価格が低く抑えられます。
特に中古のワンルームマンションであれば、地方都市や都心部以外では数百万円台から見つかることもあります。
また、区分マンション投資(特に居住用に近い形態)は、投資家の属性(勤務先、年収など)次第で、金融機関からのローン(融資)が比較的利用しやすい傾向にあります。自己資金(頭金)が少なくても、融資を活用することで、自己資金以上の規模で投資できる可能性があります。
2. 管理の手間が少ない
区分マンション投資は、オーナー自身が行うべき管理業務が限定的です。
- 建物全体の管理
- エントランスの清掃、エレベーターの保守点検、外壁の修繕計画(大規模修繕)などは、全オーナーで構成される「管理組合」が主体となり、管理会社に委託して行われます。
- 賃貸管理業務
- 入居者の募集、家賃の回収、クレーム対応、退去時の清算といった煩雑な業務は、賃貸管理会社に手数料(一般的に家賃の5%程度)を支払うことで全て委託できます。
これにより、オーナーは毎月の収支チェックや管理会社とのやり取りが主な業務となり、本業で忙しいサラリーマンでも副業として両立しやすいのです。
3. 流動性が高く売却しやすい
投資において「いつ、いくらで売却できるか」という出口戦略は非常に重要です。
区分マンションは、一棟物件に比べて価格帯が低いため、買い手の層が広いのが特徴です。他の投資家はもちろんのこと、「賃貸ではなく購入して住みたい」と考える一般の個人(実需層)もターゲットになります。
市場のプレイヤーが多いため、市況が良ければ比較的短期間で売却して利益を確定(キャピタルゲイン)することも可能ですし、急に現金が必要になった場合でも換金しやすいというメリットがあります。
4. リスク分散がしやすい
「卵は一つのカゴに盛るな」という投資の格言通り、区分マンション投資はリスク分散に適しています。
例えば、自己資金とローンで合計6,000万円の投資枠があるとします。この資金で6,000万円の一棟アパートを1つ購入すると、その物件が空室だらけになったり、災害に遭ったりした場合、一気に収入が途絶えるリスクを負います。
一方、区分マンション投資であれば、2,000万円の物件を「A市(駅近)」「B市(再開発エリア)」「C市(単身者需要が堅調)」といったように、異なる特徴を持つエリアに3戸分散して購入できます。1戸が空室になっても、他の2戸の家賃収入でカバーできるため、収入の安定性が高まります。
5. 税制上のメリットを受けられる可能性がある
これは全ての人に当てはまるわけではありませんが、特定の条件下で節税効果が期待できます。
- 減価償却費による損益通算
- 不動産所得が赤字になった場合、その赤字分を給与所得など他の所得と合算(損益通算)して確定申告することで、納めすぎた税金(所得税・住民税)が還付される可能性があります。
この赤字は、実際の支出を伴わない「減価償却費」という会計上の経費によって生み出されるケースが多いです。
※ただし、新築物件は耐用年数が長いため減価償却費が少なく、節税効果は限定的です。また、中古でも「築古木造」のような極端な節税スキームは税制改正により規制されつつあります。節税目的のみの投資は危険です。
- 不動産所得が赤字になった場合、その赤字分を給与所得など他の所得と合算(損益通算)して確定申告することで、納めすぎた税金(所得税・住民税)が還付される可能性があります。
- 相続税評価額の圧縮効果
- 現金で1億円を持っている場合、相続税評価額はそのまま1億円です。しかし、1億円で区分マンションを購入すると、相続税評価額は市場価格(実勢価格)よりも低い「路線価」や「固定資産税評価額」を基準に計算されるため、数千万円レベルまで評価額を圧縮できる可能性があります。
区分マンション投資のデメリットと主なリスク
ここからは、「やめとけ」「儲からない」と言われる理由にもなっている、区分マンション投資特有のデメリットと、必ず直面するリスクを解説します。メリットの裏返しでもある点を理解することが、失敗回避の第一歩です。
1. 空室リスク(収入ゼロのリスク)
これは区分マンション投資の大きなリスクです。
一棟投資(例えば10室)であれば、1室が空室になっても、残り9室の家賃収入があります(稼働率90%)。
しかし、区分マンション投資は「1室」しかありません。その1室が入居者募集中、あるいは退去して次の入居者が決まるまでの間、家賃収入は完全にゼロになります。
収入がゼロでも、ローンの返済、管理費、修繕積立金の支払いは毎月発生します。空室期間が長引けば、オーナーが自己資金から持ち出し(赤字)を続けることになり、キャッシュフローを直撃します。
2. 家賃下落リスク
購入時に「月8万円の家賃」を想定して収支シミュレーションを組んでいても、その家賃が永遠に続く保証はありません。
- 築年数の経過
- 建物や設備は古くなるため、近隣の新しい物件と競争するために家賃を下げざるを得ないのが一般的です。
- 競合物件の増加
- 近隣に新しいマンションが建設されたり、類似の物件が増えたりすると、相対的に競争力が落ち、家賃下落の圧力となります。
購入時の「想定利回り」だけを鵜呑みにし、数年後の家賃下落をシミュレーションに織り込んでいないと、数年後に「こんなはずではなかった」と赤字経営に陥る可能性があります。
3. 運営コストの上昇リスク
家賃収入が下落する一方で、支出(運営コスト)は上昇するリスクがあります。これは非常によく見落とされるポイントです。
- 管理費・修繕積立金の値上がり
- 購入時の金額がずっと続くわけではありません。マンションの維持・修繕のため、管理組合の判断で数年ごとに見直され、値上がりしていくのが一般的です。特に、新築時は販売価格を安く見せるために修繕積立金が低く設定されているケースが多く、数年後に急激に値上がりすることがあります。
- 一時金の徴収
- 大規模修繕の際に積立金が不足していると、全オーナーから「一時金」として数十万円単位の追加費用が徴収されることもあります。
- 室内の設備故障
- エアコン、給湯器、コンロ、水回りといった室内の設備はオーナーの所有物です。これらが故障した場合の交換費用(数万〜数十万円)は、オーナーが全額負担しなければならない突発的な支出です。
4. 金利上昇リスク
不動産投資ローンの多くは「変動金利」で組まれます。現在は歴史的な低金利が続いていますが、将来的に金利が上昇する可能性はゼロではありません。
もし金利が1%でも上昇すれば、毎月のローン返済額が増加し、その分キャッシュフロー(手残り)は圧迫されます。収支シミュレーションがギリギリの場合、金利上昇が引き金となって赤字に転落するリスクも抱えています。
5. 意思決定の制限
一棟投資と違い、区分マンション投資は「建物の一部を所有している」に過ぎません。
「外壁を修繕したい」「ペット飼育を可にしたい」「民泊として貸し出したい」と思っても、それはオーナー一人の判断ではできず、管理組合の総会での決議(多数決)が必要です。
また、管理組合の運営状況(財政状況や理事会の機能)が悪いと、必要な修繕が行われず建物の劣化が進み、資産価値が下落するリスクにもつながります。
6. 物件価格の下落リスク
「新築区分マンション投資は儲からない」とよく言われる理由がこれです。
新築物件の販売価格には、建築費や土地代だけでなく、デベロッパー(販売会社)の利益や多額の広告宣伝費が上乗せされています。これを「新築プレミアム」と呼びます。
購入した瞬間に「中古物件」となり、この新築プレミアム分が剥落するため、購入価格の2〜3割程度、価値が下落するのが一般的です。(例:3,000万円で購入した場合、売却時には2,100万円〜2,400万円程度の価値になる可能性があります)
ローン残高が物件の売却可能額を上回る「オーバーローン」の状態に陥りやすく、売りたくても売れない(売ると多額の赤字が出る)状況になりがちです。
まとめ
区分マンション投資は、比較的少額から始められ、管理の手間も少ないことから、サラリーマンや投資初心者の資産形成の第一歩として有効な選択肢の一つです。
しかし、その手軽さの裏には、「空室=収入ゼロ」「運営コストの上昇」「新築プレミアム」といった、区分マンション投資特有のデメリットやリスクが確実に存在します。
利益が出る、税負担が軽減されるといった甘い言葉だけを鵜呑みにせず、本記事で解説したようなリスクを正しく理解し、それに対する具体的な対策(立地選定、厳しめのシミュレーション、長期修繕計画のチェック)を講じることが、成功の可能性を高める要素となります。
まずはご自身の投資目的を明確にし、リスクとメリットを天秤にかけた上で、冷静に判断するようにしてください。

