不動産売却の費用はいくら?損しないための必須知識と準備リスト
「長年住んだ家を売却したい」「相続した不動産をどうしようか」…不動産売却を考え始めたとき、多くの方が気になるのが「いくらで売れるか」と同時に、「どれくらいの費用がかかるのか」ということではないでしょうか。
不動産売却では、売却代金がそのまま手元に残るわけではありません。仲介手数料や税金など、様々な費用が発生します。事前にこれらの費用を把握しておかないと、「思ったより手元に残るお金が少なかった…」ということにもなりかねません。
このコラムでは、不動産売却に必要な費用と、スムーズな売却のための準備について、公的な情報も交えながら分かりやすく解説していきます。ぜひ最後までお読みいただき、後悔のない不動産売却の第一歩を踏み出しましょう。
はじめに:不動産売却、まず知るべき「費用の全体像」
不動産売却は、多くの方にとって人生で何度も経験することではありません。だからこそ、プロセス全体と、どのタイミングでどんな費用が発生するのか、まずは全体像を掴むことが大切です。
<不動産売却の流れと費用発生のタイミング(イメージ)>
- 売却相談・査定:不動産会社に相談(無料の場合が多い)
- 媒介契約:不動産会社と契約
- 売却活動:購入希望者探し
- 売買契約:購入希望者と契約 ⇒ 印紙代、仲介手数料(半金)
- 決済・引渡し:残代金の受領、物件引渡し ⇒ 仲介手数料(残金)、登記費用、住宅ローン返済手数料など
- 確定申告:売却翌年 ⇒ 譲渡所得税・住民税(利益が出た場合)
このように、費用は売却活動の様々な段階で発生します。「手取り額」を正確に把握するためにも、費用の種類と概算額を知っておくことが重要です.
2. 【詳細解説】不動産売却にかかる主な費用一覧
具体的にどのような費用がかかるのか、一つずつ見ていきましょう。
① 仲介手数料
売却を仲介してくれた不動産会社に支払う物になります。仲介手数料の支払いタイミングは、売買契約時と引渡し時に半金ずつ支払うのが一般的です。
支払額は、宅地建物取引業法で以下のように上限額が定められています。
200万円以下 | 5.5% |
200万円超~400万円以下 | 4.4% |
400万円超 | 3.3% |
※これはあくまで上限額です。不動産会社によっては、この範囲内で独自の料金体系を設定している場合もあります。
- ポイント
仲介手数料は成功報酬ですので、売買契約が成立しなければ原則として支払う必要はありません。
② 印紙代(印紙税)
印紙代とは、不動産売買契約書などの課税文書を作成する際に国が課す税金の事です。
契約書は売主用・買主用に2通作成することが多く、それぞれが自身の契約書に貼付する形で負担するのが一般的です。(契約により異なる場合もあります)
契約書に記載される契約金額によって税額が決まっています。
※軽減措置が適用されない場合の税額や、最新の情報は国税庁のウェブサイトでご確認ください。
③ 譲渡所得税
譲渡所得税や、追加の住民税は不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合に、その利益に対して課税されます。支払いのタイミングは、売却した翌年の確定申告期間(通常2月16日~3月15日)に申告し、納税します。
計算方法
★譲渡所得 = 売却価格 – (取得費 + 譲渡費用)
- 取得費:その不動産を購入したときの代金や仲介手数料、登記費用などです。購入時の契約書などで確認します。不明な場合や実際の取得費が売却価格の5%より少ない場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計算できます。
- 譲渡費用:売却のために直接かかった費用で、仲介手数料、印紙代(売主負担分)、測量費、建物の解体費などが含まれます。
- 税率は、不動産の所有期間によって税率が異なります。(売却した年の1月1日時点)
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下): 所得税30.63% + 住民税9% = 39.63%
- 長期譲渡所得(所有期間5年超): 所得税15.315% + 住民税5% = 20.315%
※復興特別所得税(所得税額×2.1%)を含みます。
【重要】控除・特例:マイホーム(居住用財産)を売却した場合など、条件を満たせば税負担を軽減できる特例があります。主なものを紹介します。
- マイホーム売却時の3,000万円特別控除: 譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる制度です。適用できれば、譲渡所得が3,000万円以下の場合、所得税・住民税はかかりません。所有期間の長短に関係なく適用できますが、適用要件があります。
- 所有期間10年超のマイホーム売却時の軽減税率の特例: 所有期間10年超のマイホームを売却し、上記の3,000万円控除を適用してもなお譲渡所得がある場合、課税譲渡所得6,000万円以下の部分について、低い税率(14.21%:所得税10.21%+住民税4%)が適用されます。
- この他にも様々な特例があります。適用要件が複雑な場合もありますので、詳細は国税庁のウェブサイトを確認するか、税務署や税理士にご相談ください。
④ 登記費用
必要な登記
- 抵当権抹消登記:住宅ローンが残っている場合、完済後に金融機関の抵当権を抹消するために必須です。
- 住所変更登記:登記簿上の住所が現住所と異なる場合に必要になることがあります。
登記は一般的に司法書士に手続きを依頼するのが一般的です。
費用は、司法書士への報酬と、登記手続きに必要な登録免許税(抵当権抹消は不動産1個につき1,000円など)の実費がかかります。
費用の目安は、抵当権抹消登記だけであれば、数万円程度が目安ですが、司法書士や手続き内容によって異なりますので注意が必要です。
⑤ 各種証明書類発行手数料
売却手続きを進める中で、以下のような書類が必要になることがあります。
- 登記簿謄本(登記事項証明書):法務局(数百円程度)
- 固定資産評価証明書、公課証明書:市区町村役場(数百円程度)
- 測量図、境界確認書:過去に作成されていれば保管、なければ土地家屋調査士に依頼(費用は別途必要です)
その他、マンションの管理規約などの発行にかかる実費が必要です。
⑥ 住宅ローン関連費用
住宅ローンが残っている状態で売却する場合、決済(引渡し)時にローンを一括で完済し、抵当権を抹消する必要があります。
その場合注意が必要な点として、返済する際に、金融機関やローン商品、手続き方法(窓口かネットかなど)によって、繰り上げ返済手数料がかかる場合があります。事前に金融機関に確認しましょう。(無料の場合や数万円かかる場合など様々です)
ここで、抵当権の抹消登記を完了することで売却が完了となります。
- 抵当権抹消手続き費用(上記④登記費用を参照)
3. 費用だけじゃない!売却前に必要な「準備」リスト
スムーズで有利な売却のためには、費用の把握と同時に、事前の準備が欠かせません。
① 書類の準備
以下の書類を早めに手元に揃えておくと、査定や売却活動がスムーズに進みます。
- 権利証(または登記識別情報通知): 最重要書類です。紛失した場合は再発行できないため、別の手続きが必要になります。早めに確認しましょう。
- 購入時の売買契約書、重要事項説明書: 取得費の確認などに必要です。
- 固定資産税納税通知書、評価証明書: 税額や評価額の確認に。
- 建築確認済証、検査済証(建物の場合): 建物の適法性の証明に。
- 測量図、境界確認書(土地・戸建ての場合): 隣地との境界を明確にするために重要です。
- マンションの管理規約、使用細則、長期修繕計画書、総会議事録など: マンションの場合、買主が重要視する情報です。
- その他: 耐震診断報告書、地盤調査報告書、住宅性能評価書などがあれば用意しましょう。
② 物件の準備
- 現状の把握:雨漏りやシロアリ被害、給湯器の故障など、物件の不具合や気になる点を把握し、不動産会社に伝えましょう。
- 清掃・整理整頓:内覧時の印象は非常に重要です。できる範囲でハウスクリーニングや片付けを行いましょう。
- 修繕・リフォーム:大規模なリフォームは費用対効果を慎重に検討する必要がありますが、軽微な修繕は印象アップにつながることもあります。不動産会社に相談しましょう。
- インスペクション(建物状況調査):専門家による建物の調査です。任意ですが、実施することで買主の安心感を高め、売却後のトラブル防止につながるメリットがあります。
③ 情報収集と計画
- 相場観の把握:不動産情報サイトなどで、近隣の類似物件がいくらで売りに出されているか、いくらで成約しているかを調べ、相場観を養いましょう。
- 売却スケジュールの設定:いつまでに売りたいのか、引っ越しの時期などを考慮して、余裕を持ったスケジュールを立てましょう。
- 売却理由の整理:なぜ売却するのかを明確にしておくと、不動産会社への説明や買主との交渉がスムーズになります。
④ 信頼できる不動産会社選び
- 査定依頼:まずは複数の不動産会社に査定を依頼し、査定価格だけでなく、その根拠や売却戦略、担当者の対応などを比較検討しましょう。
- 媒介契約:不動産会社が決まったら、媒介契約を結びます。契約には「一般媒介」「専任媒介」「専属専任媒介」の3種類があり、それぞれ特徴が異なります。ご自身の状況に合ったものを選びましょう。
- コミュニケーション:担当者との相性や、報告・連絡・相談が密にできるかも重要なポイントです。
4. 【ケース別】費用シミュレーションと注意点
ここで、具体的なケースで費用がどれくらいかかるかシミュレーションしてみましょう。
<シミュレーション例>
- 物件:築15年、所有期間16年のマンション(マイホーム)
- 購入価格(取得費):2,500万円
- 売却価格:3,000万円
- 住宅ローン:完済済み(抵当権抹消不要
<かかる費用の概算>
- 仲介手数料(上限): (3,000万円 × 3% + 6万円) + 消費税 = 96万円 + 9.6万円 = 105.6万円
- 印紙代: 1万円(※令和9年3月31日までの軽減税率適用)= 1万円
- 譲渡所得税・住民税:
- 譲渡費用:仲介手数料105.6万円 + 印紙代1万円 + その他諸経費(仮に5万円)= 111.6万円
- 譲渡所得:3,000万円 – (2,500万円 + 111.6万円) = 388.4万円
- 3,000万円特別控除を適用: 388.4万円 – 3,000万円 = 0円以下
- よって、譲渡所得税・住民税は 0円
- 登記費用: 住所変更登記などが必要な場合は、司法書士報酬+実費(数万円程度)
- その他費用: 証明書発行手数料など(数千円程度
概算合計:約107万円~ (登記費用等により変動)
<注意点>
- 上記はあくまで一例です。取得費が不明な場合や、特例が適用できない場合は、税額が大きく変わります。
- 測量が必要な場合(特に土地・戸建て)は、数十万円の測量費用がかかることがあります。
- 建物が古い場合、買主が見つからず、解体して更地として売却するケースでは、解体費用(木造で1坪あたり数万円~)が必要になることもあります。
- マンションの場合、売却時に管理組合への書類発行手数料などがかかる場合があります。
5. まとめ:後悔しない不動産売却のために
不動産売却には、仲介手数料、印紙代、税金、登記費用など、様々な費用がかかります。売却活動を始める前に、これらの費用を把握し、必要な書類や物件の準備を進めることが、スムーズで納得のいく売却につながります。
特に、譲渡所得税は控除や特例を知っているかどうかで、手元に残る金額が大きく変わる可能性があります。ご自身の状況でどの特例が使えるのか、適用要件を満たしているかなど、不明な点や不安な点は、私たち不動産のプロや、税理士、司法書士といった専門家に早めに相談することをおすすめします。
この記事が、あなたの不動産売却の成功の一助となれば幸いです。しっかりと準備を進め、大切な資産の売却を成功させましょう。
【免責事項】
- この記事は不動産売却に関する一般的な情報提供を目的としており、個別具体的な案件に対するアドバイスではありません。
- 税金や法律に関する情報は、2025年5月1日時点のものです。最新の情報や詳細、適用要件については、必ず国税庁、法務局、各自治体などの公的機関にご確認いただくか、税理士、司法書士などの専門家にご相談ください。
- 仲介手数料は上限額を記載しており、実際の金額は不動産会社との契約によります。
参考文献
国土交通省
[1]<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bf_000013.html
[2]令和6年度国土交通省税制改正概要
https://www.mlit.go.jp/page/content/001712685.pdf
[3]土地の譲渡に係る税制
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000074.html
[4]住宅用家屋の所有権の保存登記等に係る特例措置
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000019.html
[5]インスペクション(既存住宅の点検・調査)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutaku-kentiku.files/kashitanpocorner/jigyousya/inspection.html
国税庁
[6]No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm
[7]No.7101 不動産の譲渡・土地の賃貸借・消費貸借・運送等に関する契約書
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7101.htm
[8]No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7108.htm
[9]土地や建物を売ったとき
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_3.htm
法務局
[10]不動産登記の申請書様式について
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